11. ドロー・ザ・ライン その線を引け

11. ドロー・ザ・ライン その線を引け

課題:一年間

ジャンル:青春ドラマ

 

人物

岡本美々(みみ)(18)浪人生
石田まりえ(18)美々の親友
月川暁(ぎょう)(26)予備校講師
堀口崇匡(20)美々の先輩
塩谷(しおたに)耕造(46)予備校講師
生徒A
生徒B

 

本文

〇岡本家・美々の部屋
 岡本美々(18)と、石田まりえ(18)がパソコンを見ている。
 パソコン画面「帝京藝術大学入学試験紹介:あなたは不合格です」の表示。

 

美々「あーっ、やっぱりか……」

 

 美々はがっくりうなだれる。まりえは嬉しそうに美々の肩を叩きながら、

 

まりえ「やったー!浪人決定!たくさん遊ぼうね」
美々「なんで喜んでんのよ」

 

〇クラブ・店内
 きらびやかな証明と騒々しい音楽。
 踊っている美々とまりえ。
 美々はスマホを気にしている。

 

まりえ「先輩から返事きた?」
美々「ううん、まだ……」
まりえ「あきらめなよー、脈なしだよもう」
美々「そんなこと言わないでよ、私、絶対東京行くから!」
まりえ「別に藝大美大にこだわる必要ないんじゃないの?」
美々「私もそう思うんだけど、家を出る言い訳が立たないんだよねぇ~」
まりえ「あんた絵が描きたいんじゃなくて、先輩を追っかけたいだけだもんね」
美々「ま、そういうこと~」

 

 楽しそうに笑い、踊る二人。

 

〇美術予備校・外観
「河木塾美術研究所・名古屋校」の看板のビル。
 画材を持つ生徒たちが出入りしている。

 

〇同・デッサン室
 壁にOBのデッサンが貼ってある。
 その中の1枚に「帝京藝術大学合格者作品:堀口崇匡」と書かれている。
 室内はデッサンが立てかけられているイーゼルが、出来の良い順に一列に並べられている。
 塩谷耕造(46)と、月川暁(26)がその前に立っている。
 40人ほどの生徒が少し不安顔でそれを見ている。

 

塩谷「では6月度デッサンコンクールの講評を行う。上位から順に見て行こう」

 

 指し棒でデッサンをさし

 

塩谷「これはよく描けているな…」
月川「構図が惜しいですね…」

 

 次々に講評していく。
 生徒たちの後ろで隠れるようにしている美々とまりえ。

 

まりえ「私らまた最下位争いだね」
美々「ま、しょうがないでしょ」

 

 クスクス笑う二人。
 塩谷が最後尾のひときわ下手なデッサンの前に立ち、指し棒で作品をバシバシと叩く。

 

塩谷「そこ!聞いてるのか?本当にクソだなお前らの作品。
 特に岡本!お前やる気あんのか?」

 

美々「はぁ…まあ…」

 

 悪びれもしない表情の美々。
 月川が腕組みをしながら口をはさむ。

 

月川「悪くないと思いますけどね、僕は。
 何か持ってる気がしますよこの作品」

 

 生徒一同驚いた表情で美々を見る。
 美々はキョトンとした表情。

 

〇同・学食

 

 食事をしている美々とまりえ。

 

まりえ「月川先生に褒められるとかすごいじゃん!
 あの人、藝大主席卒業だったんでしょ?」
美々「ちょっと変わってんじゃない?」
まりえ「でもイケメンだよね~」
美々「やめてよ、私は堀口先輩一筋なんだからさ~」

 

 食べながら美々はスマホを気にし続ける。

 

〇同・デッサン室

 

 扇風機が回っている。
 汗を流しながらデッサンをしている美々ら生徒たち。
 堀口崇匡(20)が入ってくる。

 

生徒A「先輩!夏休みで帰ってこられたんですね?」
堀口「おお、お前らのデッサン、見てやるよ」

 

 美々は驚いた表情で手を止める。
 美々の横で描いているまりえ。

 

まりえ「えっ?先輩帰ってくるなんて連絡あった?」

 

 不安な表情の美々。

 

生徒B「僕のも見てくださいよ~」

 

 生徒たちが堀口の周りに集まってくる・
 堀口を目で追う美々。
 堀口は一人ずつ巡回し、美々の後ろに立つ。

 

美々「先輩どう?ちょっとは上達した?」
堀口「は?相変わらず全然ダメだなお前は」

 

 堀口は美々と交代して座り、美々の描いた線を消しながらデッサンをしていく。

 

堀口「目に見えるものをそのまま描けば良いだけなのに、なんでお前はわざわざ違った風に描くんだ?」

 

 堀口が描き終えると、正確かつ美しいデッサンが出来上がる。
 後ろには生徒たちの人だかりができている。

 

生徒たち「おお、さすが~」
堀口「簡単なことだろ。お前、才能ないよ」
美々「えっ?」
堀口「無理だろ。藝大どころかどこだってダメだ。まだ間に合うから藝大美大やめて進路変更したほうがいいぞ」
美々「そんな……そこまで……」

 

 泣きそうになる美々。
 月川がデッサン室に入ってくる。
 堀口と月川が目を合わせる。
 月川は少しニヤリとする。

 

月川「堀川君ですね」
堀口「そうですけど」
月川「事務局で呼んでるから、ちょっと来てくれませんか?」

 

 月川と一緒に出ていく堀口。

 

〇同・デッサン室(夜)

 

 美々とまりえだけが残っている。

 

まりえ「もう泣きやみなよ~。先輩が口悪いの前からじゃん」
美々「どんなにやったって無理じゃん、私」

 

 月川が入ってくる。

 

月川「まだ残っていたんですか」
美々「先生、私に才能あるって言いましたよね?」
月川「そんなことは一言も言ったつもりはないんですけどね……
 ただ、あなたも自分の色を持ってますよ」
美々「色ですか?」

 

 木炭だけで描かれた白黒のデッサンを見つめる美々。

 

美々「先生!」

 

 立ち上がり月川に迫る。

 

美々「私にデッサンを教えてください!!」
月川「教えるも何も、私はここの講師なんですから…」
美々「よろしくお願いします!」

 

 頭を下げる美々、まりえもつられて頭を下げる。

 

〇同・デッサン室
 デッサンの授業中。
 自分のデッサンとモデルの石膏像を見比べる美々。
 美々のデッサンはかなり狂っている。

 

美々「はぁぁ……」

 

 美々の後ろにやってきた月川。

 

月川「君ね、その線、正しいと思って描いていますか?」
美々「はい?いいえ、なんか違うなって……」
月川「最初に間違っている線の上に、どれだけ線を重ねても、正しくはなりません。
 何故、間違っていると気づいているのに、やり直す手間を惜しむのですか?」

 

 美々ははっとした顔で月川を見る。
 美々は描いた線を消し、石膏像をよく見て、手で測り、パンで消し、なんども描き直す。

 

〇同・デッサン室(夜)
 熱心にデッサンをしている美々。
 まりえ他数人の生徒が出口に立っている。

 

まりえ「花火大会見に行かないの?」

 

 美々は振り返りもせず描いている。

 

まりえ「なんかやる気になってるねぇ~。私たちだけで行こっか」

 

 まりえたちは去り、一人描き続けている美々。

 

〇同・デッサン室
 イーゼルがデッサンの出来順に並べられている。
 講師たちが前に立ち、生徒たちはそれを見ている。

 

塩谷「では。10月のデッサンコンクールの講評を始める」

 

 生徒の中にいる美々とまりえ。

 

まりえ「美々!すごいじゃん。今回は真ん中へんだよ!」

 

 塩谷たちが講評を続け、美々の作品の所まで来る。

 

塩谷「今回、岡本はずいぶん上達したが、入試まであと4か月だ。お前はどこ志望だったっけ?」
美々「帝京藝大……です」
塩谷「お前なぁ、身の程を知るのも大切だぞ。
 トップになったって藝大は難しいんだ。
 もっとランクを下げて狙える所を狙えよ」

 

 生徒たちが一斉に美々を見る。

 

月川「そうですかねぇ、僕は割といけるんじゃないかと思いますよ」
塩谷「月川先生は妙にこいつを持ち上げますね」
生徒A「もしかして、デキてんじゃねーの?」

 

 どっと笑う生徒たち。美々は黙っている。

 

〇同・デッサン室
 窓に雪。
 木炭を削る手。
 ひたすらデッサンをする美々。
 後ろから指導する月川。
 美々は少し笑みを浮かべている。

 

〇岡本家・美々の部屋
 パソコン画面を見る美々とまりえ。
 「尾張県立芸術大学入試紹介:合格」の表示。
 喜び抱き合う二人。

 

まりえ「やったね!二人とも合格!
 でも本当に良かったの?東京行かなくても」
美々「うん、もういいんだ、先輩のことは」
まりえ「じゃあ月川先生を選ぶんだね?」
美々「違うよ、先生は4月から大阪で講師やるんだって」
まりえ「え?じゃああんたマジで……」

 

(ペラ20枚)

 

講評

季節ごとの描写で一年間の流れが表現できています。
それぞれのキャラクターが立っているのもいいですね。