ジャンル:青春ドラマ
岡本美々(みみ)(18)浪人生
石田まりえ(18)美々の親友
月川暁(ぎょう)(26)予備校講師
堀口崇匡(20)美々の先輩
塩谷(しおたに)耕造(46)予備校講師
生徒A
生徒B
〇岡本家・美々の部屋
岡本美々(18)と、石田まりえ(18)がパソコンを見ている。
パソコン画面「帝京藝術大学入学試験紹介:あなたは不合格です」の表示。
美々「あーっ、やっぱりか……」
美々はがっくりうなだれる。まりえは嬉しそうに美々の肩を叩きながら、
まりえ「やったー!浪人決定!たくさん遊ぼうね」
美々「なんで喜んでんのよ」
〇クラブ・店内
きらびやかな証明と騒々しい音楽。
踊っている美々とまりえ。
美々はスマホを気にしている。
まりえ「先輩から返事きた?」
美々「ううん、まだ……」
まりえ「あきらめなよー、脈なしだよもう」
美々「そんなこと言わないでよ、私、絶対東京行くから!」
まりえ「別に藝大美大にこだわる必要ないんじゃないの?」
美々「私もそう思うんだけど、家を出る言い訳が立たないんだよねぇ~」
まりえ「あんた絵が描きたいんじゃなくて、先輩を追っかけたいだけだもんね」
美々「ま、そういうこと~」
楽しそうに笑い、踊る二人。
〇美術予備校・外観
「河木塾美術研究所・名古屋校」の看板のビル。
画材を持つ生徒たちが出入りしている。
〇同・デッサン室
壁にOBのデッサンが貼ってある。
その中の1枚に「帝京藝術大学合格者作品:堀口崇匡」と書かれている。
室内はデッサンが立てかけられているイーゼルが、出来の良い順に一列に並べられている。
塩谷耕造(46)と、月川暁(26)がその前に立っている。
40人ほどの生徒が少し不安顔でそれを見ている。
塩谷「では6月度デッサンコンクールの講評を行う。上位から順に見て行こう」
指し棒でデッサンをさし
塩谷「これはよく描けているな…」
月川「構図が惜しいですね…」
次々に講評していく。
生徒たちの後ろで隠れるようにしている美々とまりえ。
まりえ「私らまた最下位争いだね」
美々「ま、しょうがないでしょ」
クスクス笑う二人。
塩谷が最後尾のひときわ下手なデッサンの前に立ち、指し棒で作品をバシバシと叩く。
塩谷「そこ!聞いてるのか?本当にクソだなお前らの作品。
特に岡本!お前やる気あんのか?」
美々「はぁ…まあ…」
悪びれもしない表情の美々。
月川が腕組みをしながら口をはさむ。
月川「悪くないと思いますけどね、僕は。
何か持ってる気がしますよこの作品」
生徒一同驚いた表情で美々を見る。
美々はキョトンとした表情。
〇同・学食
食事をしている美々とまりえ。
まりえ「月川先生に褒められるとかすごいじゃん!
あの人、藝大主席卒業だったんでしょ?」
美々「ちょっと変わってんじゃない?」
まりえ「でもイケメンだよね~」
美々「やめてよ、私は堀口先輩一筋なんだからさ~」
食べながら美々はスマホを気にし続ける。
〇同・デッサン室
扇風機が回っている。
汗を流しながらデッサンをしている美々ら生徒たち。
堀口崇匡(20)が入ってくる。
生徒A「先輩!夏休みで帰ってこられたんですね?」
堀口「おお、お前らのデッサン、見てやるよ」
美々は驚いた表情で手を止める。
美々の横で描いているまりえ。
まりえ「えっ?先輩帰ってくるなんて連絡あった?」
不安な表情の美々。
生徒B「僕のも見てくださいよ~」
生徒たちが堀口の周りに集まってくる・
堀口を目で追う美々。
堀口は一人ずつ巡回し、美々の後ろに立つ。
美々「先輩どう?ちょっとは上達した?」
堀口「は?相変わらず全然ダメだなお前は」
堀口は美々と交代して座り、美々の描いた線を消しながらデッサンをしていく。
堀口「目に見えるものをそのまま描けば良いだけなのに、なんでお前はわざわざ違った風に描くんだ?」
堀口が描き終えると、正確かつ美しいデッサンが出来上がる。
後ろには生徒たちの人だかりができている。
生徒たち「おお、さすが~」
堀口「簡単なことだろ。お前、才能ないよ」
美々「えっ?」
堀口「無理だろ。藝大どころかどこだってダメだ。まだ間に合うから藝大美大やめて進路変更したほうがいいぞ」
美々「そんな……そこまで……」
泣きそうになる美々。
月川がデッサン室に入ってくる。
堀口と月川が目を合わせる。
月川は少しニヤリとする。
月川「堀川君ですね」
堀口「そうですけど」
月川「事務局で呼んでるから、ちょっと来てくれませんか?」
月川と一緒に出ていく堀口。
〇同・デッサン室(夜)
美々とまりえだけが残っている。
まりえ「もう泣きやみなよ~。先輩が口悪いの前からじゃん」
美々「どんなにやったって無理じゃん、私」
月川が入ってくる。
月川「まだ残っていたんですか」
美々「先生、私に才能あるって言いましたよね?」
月川「そんなことは一言も言ったつもりはないんですけどね……
ただ、あなたも自分の色を持ってますよ」
美々「色ですか?」
木炭だけで描かれた白黒のデッサンを見つめる美々。
美々「先生!」
立ち上がり月川に迫る。
美々「私にデッサンを教えてください!!」
月川「教えるも何も、私はここの講師なんですから…」
美々「よろしくお願いします!」
頭を下げる美々、まりえもつられて頭を下げる。
〇同・デッサン室
デッサンの授業中。
自分のデッサンとモデルの石膏像を見比べる美々。
美々のデッサンはかなり狂っている。
美々「はぁぁ……」
美々の後ろにやってきた月川。
月川「君ね、その線、正しいと思って描いていますか?」
美々「はい?いいえ、なんか違うなって……」
月川「最初に間違っている線の上に、どれだけ線を重ねても、正しくはなりません。
何故、間違っていると気づいているのに、やり直す手間を惜しむのですか?」
美々ははっとした顔で月川を見る。
美々は描いた線を消し、石膏像をよく見て、手で測り、パンで消し、なんども描き直す。
〇同・デッサン室(夜)
熱心にデッサンをしている美々。
まりえ他数人の生徒が出口に立っている。
まりえ「花火大会見に行かないの?」
美々は振り返りもせず描いている。
まりえ「なんかやる気になってるねぇ~。私たちだけで行こっか」
まりえたちは去り、一人描き続けている美々。
〇同・デッサン室
イーゼルがデッサンの出来順に並べられている。
講師たちが前に立ち、生徒たちはそれを見ている。
塩谷「では。10月のデッサンコンクールの講評を始める」
生徒の中にいる美々とまりえ。
まりえ「美々!すごいじゃん。今回は真ん中へんだよ!」
塩谷たちが講評を続け、美々の作品の所まで来る。
塩谷「今回、岡本はずいぶん上達したが、入試まであと4か月だ。お前はどこ志望だったっけ?」
美々「帝京藝大……です」
塩谷「お前なぁ、身の程を知るのも大切だぞ。
トップになったって藝大は難しいんだ。
もっとランクを下げて狙える所を狙えよ」
生徒たちが一斉に美々を見る。
月川「そうですかねぇ、僕は割といけるんじゃないかと思いますよ」
塩谷「月川先生は妙にこいつを持ち上げますね」
生徒A「もしかして、デキてんじゃねーの?」
どっと笑う生徒たち。美々は黙っている。
〇同・デッサン室
窓に雪。
木炭を削る手。
ひたすらデッサンをする美々。
後ろから指導する月川。
美々は少し笑みを浮かべている。
〇岡本家・美々の部屋
パソコン画面を見る美々とまりえ。
「尾張県立芸術大学入試紹介:合格」の表示。
喜び抱き合う二人。
まりえ「やったね!二人とも合格!
でも本当に良かったの?東京行かなくても」
美々「うん、もういいんだ、先輩のことは」
まりえ「じゃあ月川先生を選ぶんだね?」
美々「違うよ、先生は4月から大阪で講師やるんだって」
まりえ「え?じゃああんたマジで……」
(ペラ20枚)
季節ごとの描写で一年間の流れが表現できています。
それぞれのキャラクターが立っているのもいいですね。