10. イグジット・ロウ

10. イグジット・ロウ

課題:非常口

ジャンル:パニック

 

人物

松澤純(23)大学生
一条富康(55)自営業者
金昌寿(キムサンス)(26)店員
布施瑠璃(24)金の恋人
小田麻紀子(32)シングルマザー
パク・スア(30)CA
チョ・サンフン(47)機長
ユ・ジホ(36)副操縦士
カウンター受付係

 

〇空港・外観
 空港の建物。
 青い空が広がる。

 

〇空港内・カウンター
 「新羅航空」と看板のあるカウンター。
 松澤純(23)がスマホを提示する。
 スマホを覗き込む受付係。

 

受付係「お席はこちらでよろしいですか?」
純「はい」
受付係「13時30分、SK789ソウル行き……」

 

 受付係は機械的にチケットを発券する。

 

〇飛行機・入口
 パク・スア(30)入口に立ち、同僚と共にチケットを確認しながら乗客を座席に誘導している。
 乗り込んでいく乗客。
 スア、片言の日本語で

 

スア「アンニョンハセヨ、チケットを拝見いたします」

 

 純はチケットをスアに見せる。

 

スア「こちら側の通路からお進みください」

 

 純はスアが手で示した方向に進む。

 

〇機内・客席
 純は壁に「非常口」と書かれている席のところで立ち止まり、自分の持っているチケット番号と照らし合わせて着席する。
 バッグから「はじめてのソウル」という本を取り出してテーブルに乗せる。
 そこへ一条富康(55)がやって来る。

 

一条「お、兄ちゃんもこの席?」
純「そうですけど…」
一条「ワシはいつも非常口の席にしとるんだ。兄ちゃんも旅慣れとるな」
純「いえ…」

 

 純はテーブルの本をそっと隠す。
 スアがシートベルトの確認をしに来る。

 

スア「お客様、こちらのお席ですが、緊急の際は脱出などのお手伝いをして頂くことになっております。
 ご同意いただけますか?」

 

 スアの話を遮るように一条が言う。

 

一条「わーかっとる、わかっとるって!」
純「僕は、足元が広そうだなと思ってスマホで予約しただけで…」
スア「ご同意いただけないと、このお席はご利用いただけないのですが…」
一条「兄ちゃん、同意しとけ、大丈夫だから」
純「はあ…じゃあ同意します」

 

 スアは苦笑いをして去る。

 

一条「知っとるかね?飛行機の事故なんてものはな、雷に当たる確率より低いんだ。心配するこたぁない。
 それよりもどうだ、エコノミーなのにビジネスクラス並みの快適さだぞ」

 

 足をぐんと伸ばして見せる一条。

 

純「ははは…」
一条「ワシはな、月に10回は海外に行っていてな、いくつも事業をやっているんだが…」

 

 大きな声で話す一条。
 たじたちとなる純。
 後ろの席に座っている金昌寿(キムサンス)(26)が、

 

金「うるさいっちゅうねん。そない偉かったらビジネスクラスに座られたらよろしいねん」

 

 金の横に座っている布施瑠璃(24)が、金に対し

 

布施「やめときて」

 

 一条は後ろを振り返り、金の手元にある緑色のパスポートを見る。

 

一条「なんだ、在日か。日本人の悪口なら朝鮮語で分からないように喋るんだな」
金「なんやて!」

 

 怒って立ち上がろうとする金。それを静止する瑠璃。

 

瑠璃「ほっときや、もう離陸するで」

 

 ぶすっとした顔で座席につく金。
 一条は金をあざ笑うように見る。
 純は一条に話しかけられないよう、機内誌をパラワラめくる。

 

〇空港・滑走路
 飛行機が滑走路を走り、飛び立っていく。

 

〇機内・客席
 純と一条の目の前には、CA用の座席があり、スアが向かい合って座っている。
 純が前を見るとスアと目が合う。軽く微笑むスア。

 

一条「なっ、これもこの席のいいところだ」

 

 一条は純に耳打ちし、いやらしい目でスアのスカートのひざ元を見る。
 純は気まずい顔で視線をそらす。
 純たちの席の横、通路を挟んで中央の席に小田麻紀子(32)。
 膝の上には3ヶ月の赤ちゃんを抱いている。
 離陸の音で赤ちゃんが大声で泣き出す。

 

麻紀子「ああ、泣かないで」

 

 それを見て舌打ちをする一条

 

一条「ちっ、あんな小さな赤ん坊を連れて飛行機に乗るなんて、近頃の母親は常識がなっとらんわ」

 

 純は気の毒だなという表情で麻紀子を見る。

 

〇上空
 進む飛行機の先に暗雲が立ち込める。

 

〇機内・客席
 ベルト着用のサインが消える。
 CA達は軽食を配り始める。

 

アナウンスの声「…現地の天候は晴れ、当機は定刻通り到着予定でございます…
 尚、ベルト着用サインが消えましても、お席についてベルトはお締めくださいますよう…」

 

 各自食事をしたり、映画を見るなどしてリラックスした機内の様子。
 突然、窓の外が暗くなり、機内が大きく揺れる。
 どよめきの声。
 周りを見渡す純。一条は寝ている。
 ベルト着用サインが点灯する。
 一条が目覚め、慌ててベルトを締める。

 

アナウンスの声「現在、飛行機は気流の悪いところを通過中でございます。
 安全ベルトをお締めになり、お席におつきください」

 

 アナウンスの声は若干震えている。
 揺れはひどくなる。

 

〇機内・コックピット
 操縦かんを握り、慌てた様子のユ・ジホ(36)と、指図をするチョ・サンフン(47)。
 けたたましいアラームが鳴っている、
 韓国語での会話、字幕で日本語。

 

チョ「何が起こった?手動に切り替えるぞ」
ユ「機長!失速しています!!」

 

〇機内・客席
 天井から酸素マスクが落ちてくる。
 事の重大さに乗客から悲鳴が上がる。
 スアが機内の前方に立ち、大声で

 

スア「皆様、落ち着いてください。当機は大丈夫でございます。
 これから万一の場合に備えて、避難方法のご説明をいたします」

 

〇上空
 機体が急降下する。

 

〇機内・客席
 立っていたスアの身体が宙に浮く。
 天井に体をぶつけ、落下数する。

 

金「わぁっ、CAさん、大丈夫かいな」

 

 スアは気絶している。スアに駆け寄り抱き起す金。寄り添う瑠璃。
 呆然と見ている純。
 乗客はパニックになり、非常口に押し寄せてくる。
 金が静止する。
 金は純を見て、

 

金「そこに座ったからには、あんさんが指揮するんやで」
一条「おい、冗談じゃないぞ!」

 

 慌てて救命胴衣を身に着ける一条。
 純は扉に備え付けの避難マニュアルをめくる。手は震えている。
 一条が救命胴衣を膨らませてしまう。

 

純「あっ、まだ膨らませちゃだめです!脱出する直前に膨らませるんです」
一条「わぁっ、これ、苦しいぞ!」

 

 麻紀子が引き締まった表情で赤ん坊を抱きしめながら、純を見つめている。

 

麻紀子「大丈夫よ、大丈夫…」

 

(ペラ15枚)

 

講評

機内の様子がリアルに描かれていますね、一条のキャラクターが分かりやすいのですが、その分、主人公である純が目立たなくなっているのは残念です。